インプラントを用いた乳房再建
インプラント(人工乳房)を用いて乳がん術後の欠損した乳房を再建する治療法です。
日本では、2013年6月から、健康保険の適用が承認されています。保険適用には、適応基準(施設基準、医師基準、選択基準と除外基準)や、症例登録等が厳密に規定されています。

インプラントとは
インプラント(人工乳房)は、シリコン製の乳房形態を再現するために体内に埋め込む医療用材料です。
シリコン製のバッグの中に、ゲル状のシリコンが詰まった構造になっていますので、素材としては100%のシリコン製です。
シリコンは「架橋」という分子構造により、さまざまな柔らかさに調節することができる性質を持っています。現在乳房再建のために使用されているゲル状のシリコンは、「コヒーシブ シリコン」というものです。コヒーシブとは「硬く結合した」という意味で、半流動体、つまりハサミで切っても外に出てきにくいゼリーのような柔らかさのものです。これにより、乳房に非常に近い感触を持ちながら、バックが破損しても流出して体に悪影響を及ぼさないようになっています。

また、インプラントはかたちによって、2つに分類されています。
ラウンドタイプ:底面部分が円状の、ドーム型のインプラント。小さめの乳房に対する乳房再建や、豊胸の際に主に使用されます。
アナトミカルタイプ:底面部分が涙型の、実際の乳房の形を模して作られたインプラント。乳房全摘術後の乳房再建に主に使用されます。

また、表面の形状によっても、2つに分類されます。
スムースタイプ:表面に凹凸のないツルツルしたインプラント。カプセル拘縮が問題になりにくい豊胸の際に主に使用されます。
テクスチャードタイプ:表面に凹凸があるザラザラしたインプラント。カプセル拘縮を抑える必要がある乳房再建の際に主に使用されます。

インプラント再建とエキスパンダー
インプラントは体内に留置して、乳房のボリュームを再現するための医療用材料です。したがって、目的とするインプラントを収めるだけの乳房の皮膚の面積がない場合には、インプラントによる乳房再建手術に先立ち、まずは皮膚を拡張しておく必要があります。

皮膚を拡張するための医療用材料がエキスパンダーです。
エキスパンダー(ティシュー・エキスパンダー、組織拡張器ともよばれます)は、シリコン製のバッグ状の構造をしています。インプラントと似た形態のものが使用されることが多いですが、インプラントとの最大の違いは、中身がシリコンではなく、液体(一般的には生理食塩水)だという点です。
エキスパンダーには針で刺しても水が漏れにくい注入部位があります。この部位に注射をさして、生理食塩水を注入することにより、じょじょにエキスパンダーを拡張、つまりはその上にある皮膚を拡張していきます。

皮膚を拡張する必要がある場合とは、主に次のようなケースが挙げられます。
・ 乳房全摘術などで、乳腺とともに皮膚も切除するために不足が生じる場合。
・ 過去に乳房切除術がおこなわれ、乳房が欠損した状態がしばらく続いたために皮膚が縮んでしまっている場合。
・ 乳癌の悪性度やリンパ節転移の状態を確認したのちに追加治療がおこなわれる可能性があるため、乳房切除術と同時にインプラント再建がおこなえない場合。
・ 乳癌治療をおこなう側と反対の胸の豊胸をおこなうため、より広い面積の皮膚が必要になる場合。

これらの場合には、エキスパンダーをまず留置する手術をおこないます。

乳癌治療と同時に乳房再建をおこなう場合(一次再建)には、通常は乳房切除術と同時にエキスパンダーを留置します。
過去におこなわれた乳癌治療から時期をおいて乳房再建をおこなう場合(二次再建)には、エキスパンダーを留置するための手術が必要となります。

乳腺切除されたスペースに、エキスパンダーやインプラントを留置すると、手術によって傷んだ薄い皮膚だけで異物が覆われることになり、感染や治癒障害(皮膚の壊死や治癒の遅延など)から、異物が露出してしまうリスクが高まります。
そのため、エキスパンダーもインプラントも、大胸筋という比較的厚い筋肉の下の層に留置します。

エキスパンダーの拡張には、数ヶ月の期間が必要です。
再建する乳房の大きさや、皮膚の不足量、皮膚の柔らかさによってことなりますが、定期的(通常は1〜3週に1回程度)に通院し、無理のない量ずつ生理食塩水を注入します。

インプラント再建の実際と経過
インプラント再建は乳房切除術と同時に、もしくはエキスパンダーによる皮膚拡張後におこないます。
インプラントは大胸筋の下の層に留置します。一般的には、手術後しばらくの期間、インプラント周囲に血液や体液が貯留しないように、ドレーンが必要です。

乳房再建の目的は、左右対称の美しいかたちの乳房を再現することです。また、乳癌治療という病気の治療後におこなうので、乳房切除術や放射線照射の影響を考慮する必要があります。
したがって、ただインプラントを挿入すればよいという単純な治療ではありません。
ひとりひとり異なる条件(体格、皮膚の厚さ、再建する乳房の大きさやかたち、放射線照射の影響、全身状態など)を的確に分析し、その方にオーダーメイドした手術テクニックを適用する必要があります。

インプラント再建時に考慮することがある代表的な項目は、以下のようなものがあります。
・ かたち、大きさが適したインプラントの選別
・ 適した位置にインプラントが留置されるようなスペース作りや固定など
・ 自然なかたちになるようなカプセルへの処置(カプセル切開や切除など)
・ 乳房の下の溝が美しくでるような形成術
・ 肉付きが不足している部分に対する脂肪注入など
・ 肉付きがあまっている部分に対する脂肪吸引や切除など
・ 再建と反対側(健側)の調整(豊胸、乳房挙上、乳房縮小など)

合併症のリスク
・ティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)やブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)と
いう人工物を体内に入れるため、感染症を起こすことがあります。その場合は、人工物をいったん
取り出して感染を治療し、完治してから再建をやり直さなければなりません。
・インプラントの周囲に薄い膜ができ、膜が硬くなって縮むことにより乳房が非常に硬くなったり
痛みを生じたりする合併症(被膜拘縮)が起きることがあります。
●メンテナンス ・再建していない側の乳房が加齢とともに下垂し、左右のバランスが悪くなった場合には、再建して
いない側の乳房を持ち上げる、豊胸するなど、バランスを合わせる手術が必要になることがあります。

●放射線療法の影響 ・乳がんの手術後に放射線療法を受けた場合は、皮膚が弱く、伸びにくくなるため、インプラントによる
再建では形のよい乳房に仕上がらないことがあります。また、血行が悪くなるため、皮膚壊死などの
皮膚障害を起こしやすくなります。このような理由で、放射線療法後のインプラントによる再建は
難しいとされています。

手術後の定期チェックとメンテナンス
インプラントは時間とともに徐々に劣化していき(経年劣化)、将来的には交換や摘出が必要となる可能性があります。安全のために10~20年後の交換を視野に入れておくのが望ましいとされていますが、実際にどれくらいで限界をむかえて外周部分が破れる(破損)かは、人によって異なり、予想することは困難です。
そのため、年に1回はMRI検査による定期検診をおこなうことをお勧めしています。MRI検査により、インプラントの状態や、周囲に血腫・漿液腫などの好ましくない反応が起きていないかを確認することができます。

治療にともなうリスクとベネフィット
インプラントにともなって起こりうるリスクとしては、次のような合併症が考えられます。
 一時的な皮下出血
 腫れ
 血腫
 漿液腫
 感染
 露出
 経年変化による変形
 インプラントの破損
 カプセル拘縮

また、この治療を受けることにより得られるベネフィットは、欠損した乳房を再建することによる整容性の改善と、社会活動をおこないやすくなるなどのQOLの改善が挙げられます。